民法が120年ぶりに改正され、2020年初旬に施行される予定となっています。賃貸住宅をお持ちの大家さんにも関係のある改正がいくつかあります。その中でも「敷金返還に関する改正」や「連帯保証人の保証限度額についての改正」などはご存じのことと思いますが、実はもう1つ重要な改正があるのです。
設備が故障した時の賃料減額責任を明示
それは、エアコンや給湯器などの設備等が故障して使用できなくなった場合の「賃料減額」についての規定です。今までは設備が故障した場合、急いで修繕をするのは貸主としては当然の義務ですが、賃料を減額するのは当たり前ではなく、よほど修繕が遅れたり、入居者さんと揉めてしまったりした時に、入居者さんと話し合いの末に賃料減額という話が出るくらいだったと思います。それが新しい民法では、入居者から賃料減額請求をされなくても「当然に賃料が減額される」という内容に改正されます。では、当然に減額される金額はいくらなのか?というと、残念ながらそこまで改正民法には規定が無いので、施行までに賃貸借契約書の中に金額についての規定を盛り込む必要があるのです。
民法改正を踏まえて国土交通省では「賃貸住宅標準契約書」の再改訂を検討していて、その試案を公表していますが、その中にも具体的な金額は示されていませんでした。その考え方としては次のように解説しています。
一部滅失の程度や減額割合については、判例等の蓄積による明確な基準がないことから、紛争防止の観点からも、一部滅失があった場合は、借主が貸主に通知し、賃料について協議し、適正な減額割合や減額期間、減額の方法(賃料設定は変えずに一定の期間一部免除とするのか、賃料設定そのものの変更とするのか)等を合意の上決定することが望ましいと考えられる。
賃料減額のガイドラインがあった
では、具体的な数字が示されているものは他に無いのでしょうか。探してみると、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の「サブリース住宅原賃貸借契約書(改訂版)」に、こういった場合の金額について記載してありました。そこには、賃料減額と免責日数の具体的目安が状況別に規定されています(下記の表を参照してください)。 例えば、トイレが使えない場合の減額割合は月額賃料の30%、お風呂が使えない場合は10%、水が出ない場合は月額賃料の30%、エアコンが使えない場合は月額5,000円と記載されています。更に、状況別に免責日数の規定もあり、トイレが使えない場合は1日、お風呂が使えない場合は3日、水が出ない場合は2日、エアコンが使えない場合は3日となっています。この免責日数の意味は、修繕までに多少の日数がかかることを考慮しているものでしょう。
計算例も載っています。
「家賃10万円の物件でトイレが3日間使えなかった場合」です。
家賃10万円×減額割合30%×日割り
3/30-免責日数1日=2000円
このケースでは賃料から2000円の減額が目安となります。
これはサブリースの時に使用する標準契約書の中の規定ですが、一般の賃貸借契約でも参考にできるガイドラインとなるものと思われます。
状況 | 減額割合(月額) | 免責日数 |
---|---|---|
トイレが使えない | 30% | 1日 |
風呂が使えない | 10% | 3日 |
水が出ない | 30% | 2日 |
エアコンが作動しない | 5000円 | 3日 |
電気が使えない | 30% | 2日 |
テレビ等が使えない | 10% | 3日 |
ガスが使えない | 10% | 3日 |
雨漏りによる利用制限 | 5~50% | 7日 |
出典 (公財)日本賃貸住宅管理協会
さて、このように「当然に賃料から減額される金額」をあらかじめ決めることは、賃貸住宅の大家さんにとって良いことでしょうか、それとも悪いことでしょうか。冷静に考えてみると良い部分の方が多いのではないかと思われます。
揉めたときの交渉の基準となる!?
入居中に設備が故障すると、入居者さんによっては大きな揉め事に発展することが増えています。時代とともに入居者さんの要求レベルが上がり、主張されることも細かくなっていることが原因だと思われます。たとえば過去には、エアコンが壊れて眠れないためホテル代を出して欲しい、子供が汗疹になったので治療費を請求したい、などと主張する入居者さんがいらっしゃいました。給湯器が壊れても同じです。設備の修繕や交換工事に立ち会うために会社を休んだので「休業補償を請求したい」などと言われることもあります。修繕されるまで家賃は支払わない!などと、堂々と滞納する人すらいます。誠心誠意謝罪してできる限り修繕を早くする、という姿勢を見せるだけでは事態が収まらず、テレビの見過ぎなのか反社会勢力の方々のように「誠意を見せて欲しい」などと遠回しに金銭要求する人すら出て来る始末です。それというのも、設備故障の時にかかった迷惑を「お金に換算するといくら」というガイドラインが決まっていないからで、このままではこうした揉め事は益々増えて行くだろうと思われます。それが今回の民法改正を機に、賃貸借契約を交わす時に「設備故障の際の賃料減額」を明示して署名を交わすことになれば、少なくともお金で解決する道がはっきりと用意されることになります。我々不動産会社にとっても、大家さんにとっても悪い話ばかりではないのではないでしょうか。実際に改正民法が施行される2020年までにこの件については様々な議論がされ、契約書にどう反映していったら良いかが話題になるはずです。関心を持ってこのニュースを見守っていただきたいと思います。