あるオーナーから相談を受けました。築27年のRC造の賃貸マンションを所有していますが、外壁は傷んできて、間取や設備も現在のニーズに合わなくなっています。「このような老朽物件の活用方法を教えてください」とのことでした。賃貸経営していれば必ず訪れる事態です。ご一緒に考えてみましょう。
老朽物件の3つの活用方法
このような老朽物件の活用法としては、一般的には3つの方法が考えられます。それは「売却するか」と「建替えるか」と「再生するか」の3つです。
もし物件を売るとしたら、少しでも高く売りたいと希望するのは当然です。購入相手は不動産投資家ですので、高い利回りを求めるでしょう。そのためには満室(に近い)経営であることが必須条件となりますが、他にも、管理体制が良い、大規模修繕が済んでいる、などが投資家がチェックするポイントになります。
すべてに満点は難しいと思いますが、売却時期までに可能な限り目標に近づける必要があります。
つぎの「建替え」は、建物の状態が判断基準として重要なポイントになります。
すでに建物が構造的に寿命を迎えていて、修繕や改修をするより、解体して建て替えた方が経済的価値が高いなら、それは建替えのタイミングです。でも築27年ではあり得ないでしょう。RC造の法定耐用年数は45年ですが、実際には60年や70年くらいは物理的には使用できるはずです。壊して建替えるには勿体ないですよね。すると、オーナー様の一番現実的な方法は、3番めの「物件を再生させる」ということになるのではないででしょうか。この再生工事として考えられるのは、「リフォーム」と「リノベーション」と「大規模修繕」の3つです。
まず大規模修繕から解説すると、これは築10年~15年ごとに行う、外壁、屋上防水、サッシ廻り、鉄骨部分、住宅設備などを交換・修理・更生する工事です。このオーナー様の物件は築27年ですので、すでに1度か2度は工事が行われているかもしれません。1回目の大規模修繕が築10年~15年くらいで行われたなら、その目的は「出来るだけ新築当時の状態に戻す」だったと思います。しかし今回は築27年なので、ほとんどの設備が寿命を迎えていますから、躯体だけ残してリノベーション工事をするのに最適なタイミングとなります。なので、今回ご質問いただいたオーナー様の、「老朽物件の活用法」で一番のお勧めは、「リノベーション工事で物件を再生する」という方法となります。
リフォームとリノベーションのハッキリとした違い
そこで、「リノベーション」と「リフォーム」という言葉が混同して使われていますので、その違いを説明しておきましょう。この2つの言葉には明確な違いがあります。単に言葉の違いというより、どちらを選択するかで賃貸経営上の戦略が変わります。
たとえば、築10年の貸室が「なかなか決まらない」という状況になったとき、家賃を下げる以外で検討するとしたらリフォームです。リノベーションの検討はあり得ません。DKと洋室の間の壁を取り払って広いLDKにするとか、水回りの設備を交換するとか、壁クロスを替えたり、照明器具を付けるなど。これらはすべてリフォーム工事になります。言葉で説明するなら「新築時の状態を維持しようとする工事」でしょうか。
対してリノベーションは、構造的に必要な柱と壁と天井だけ残して(これをスケルトン状態と言います)、部屋全体を構築し直します。浴室を交換するだけでなく広くしたり、キッチンセットの場所を移して対面式にしたり、余分な廊下を排して収納を多くしたり、必要なら配管も新しく敷設し、外壁に面した壁に断熱材を入れ、床に防音のための加工をすることもあります。「部屋が生まれ変わる」と言ってもいいでしょう。そのように考えると、築10年でリノベをすることは有り得ないことが、ご理解いただけると思います。
木造なら築20年、RC造なら築30年を超えると、このままでは「お客様から振り向かれることさえない」という状態になります。お部屋のコンセプトが、その時のお客様の希望にまったく合っていないのです。これは20年30年という時が流れれば当然のことですが、この状態に至ったときは小手先のリフォームでは通用しないでしょう。家賃を下げ続けるか、新しく生まれ変わらせるか、の選択となります。このように「リフォーム」と「リノベーション」は、建物の築年数と状況によって、賃貸経営戦略の上で選択するものですから、単なる言葉の違いを超えているのです。
リノベーションのメリット・デメリット
リフォームと比べた時のリノベーションのメリットは、何といっても「間取りを大幅に変更できる」点にあります。たとえば玄関廻りを広くしたり、収納を格段に増やしたり、水回りを使いやすくするなどの、大幅な変更ができる可能性が、リノベーションにはあります。この、玄関と収納と水回りの問題は、築27年の古い間取りが入居者から嫌われている共通の問題だと思います。リノベーションする時はスケルトン(壁・柱・天井だけ)状態に戻しますので、見えなかった劣化部分を確認して改善することができます。工事後の、設備の点検や補修がしやすくなるというメンテナンス性の改善をもたらします。これがリフォームとの大きな違いです。
対してデメリットは「費用がかかる」ことです。解体費や廃材の処理費用や足場などの仮設費用が高くつくからです。そこでリノベーション工事をするときは、募集できる想定家賃を決めて、工事にかけられる費用の上限を決めてください。そのためには、入居していただくターゲットを決めて、そのターゲットに選ばれる部屋づくりを、費用対効果のバランスを考えて実施することが何よりも重要です。いかにコストを抑えるかが、リノベーション工事の成否を握っています。
リノベーションの注意点とは?
老朽物件の活用方法を検討した結果、建替えでなく、リフォームでもなく、リノベーションを選択したら、次に考えるべきは「失敗しないためのリノベーション」です。重要なのは「ターゲット」と「コスト」という2つのポイントです。
まず「誰に暮らしてもらうか」という入居者像を、できるだけ絞り込む必要があります。たとえば2LDKを考えてみましょう。新築物件なら、2LDKのターゲットはカップル層やファミリー層を想定しますが、それ以上の細かな絞り込みは不要なのでしていないのが普通でしょう。一方で、築年数の古いリノベーション物件が、新築と同じ入居者層を狙っても、勝てる見込みはありません。そこで、同じ2LDKでもターゲットを「新婚夫婦」、「DINKS(ディンクス)」に絞り込んで、なおかつ「ペットを飼っている、あるいは飼いたい」という条件を付け足すと、その新築物件と比較しても、かなり特徴的な部屋を作ることが可能になります。新築なら、10人中7.8人が気に入るように企画するところ、リノベーション物件は1人か2人だけが気に入るくらいの「強い特徴」が必要なのです。ここに新築や築浅物件と戦える「売り」を持つことができます。
つぎに「どれくらいの予算まで掛けられるか」という発想も、リノベーションには必要不可欠です。このリノベーション工事に掛けられる費用の目安は、たとえば「新婚夫婦」や「DINKS(ディンクス)」が支払える家賃の、24ヶ月分や36ヶ月分というような上限を設けるのです。その予算の範囲で、ターゲットとした入居者が「喜んで暮らせる部屋づくり」を徹底して考えます。たとえ部屋が埋まっても、回収に時間がかかるようでは、リノベーションの意味がないからです。
老朽化でお悩みの際は、今後どのようにしていきたいか全力でサポートいたします。
